血管新生因子の発現量と放射線照射による変動を検討するにあたり、まず培養細胞が産生する血管新生因子の発現が定量出来る事が必要条件となるため、幾つかのヒト腫瘍培養細胞を用いて血管新生因子の発現の有無を調べた。各種血管新生因子のうち、定量が比較的容易(定量キットが市販されており、入手も容易)なVEGF165を検討の対象とした。培養細胞は、臨床との比較を視野に入れてヒト腫瘍由来の培養細胞を用いた。中でも臨床に於いて血管新生因子を産生していると考えられているヒト乳癌由来のMDAMB231とヒト膀胱癌由来のT24を用いた。しかし、今回実験に用いた何れの培養細胞からもVEGF165の発現を確認することは出来なかった。VEGF165の定量は細胞培養液を検体としてELISA法にて行ったが、培養細胞数に対して培養液が相対的に過剰であったことや、これにより細胞培養液中のVEGF濃度が37℃インキュベーションの測定レンジである15.6-1000pg/mlを下回った事が考えられた。また、in vivoにおいては血管新生因子の発現は、腫瘍とこれを取り巻く宿主細胞の相互作用が複雑に関係している事が報告されている。In vivoではVEGFの産生が腫瘍随伴マクロファージへの依存割合が多いため、ヒト腫瘍培養細胞のみを用いた今回のin vitroの実験系ではVEGFの発現を確認出来なかった可能性も考えられた。 次年度は、引き続き他の培養細胞を用いてVEGF165の発現の有無を調べるとともに、VEGF165以外の血管新生因子の定量も検討する予定である。
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