昨年度までの研究で以下のことが分かった。まず傷害血管の新生内膜増殖が放射線照射により抑制され、その効果が最低でも3ヶ月以上は持続を認めた。ただし、照射された傷害血管の新生内膜は時間の経過と共にわずかではあるが増殖傾向は認めた。内膜増殖の変化は傷害モデル作製より、非照射血管では3日目標本でも認められた。この時期の血管では内腔が全てに内皮細胞が覆いきれず、断裂部には血栓、血小板、組織球を認めた。このため、新生内膜の増殖過程のなかで早期での傷害部位近傍の内皮細胞の分析が必要であり、今年度は内皮細胞の走査電子顕微鏡による検討を行った。 その結果は以下の通りである。傷害モデル作成2日目で照射血管の障害部位についても血小板、赤血球が集籏し、内皮細胞が被覆していた。非照射血管と比べ照射血管の内皮細胞は肥大化しており、核も目立っていた。また、内皮細胞の再生兆候を示すとされる微絨毛も少なかった。3日目以降では細胞の肥大化に加え、照射血管のみに内皮細胞の癒合・重層化がみられ、一部の再生した内皮細胞の走行は本来の走行と異なり血流方向に沿った整然さを失っていた。細胞の肥大化は継続していたが、加えて核肥大化と細胞境界部の剥離もみられ始めた。 これより照射による新生内膜の生物学的変化は少なくとも2日目より始まっていることを示した。また、内皮細胞および核の肥大化、その後の細胞形態の異常は照射された内皮細胞の再生や修復機構から逸脱した現象と考えられ、内皮細胞の代謝過程も変化させている可能性を示唆した。今後、別手法での検討も必要であるが、放射線照射による内皮細胞への生物学的作用の一端が検討できた。
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