本研究は、精神分裂病の記憶機能に関して生理学的、認知心理学的、自覚的症状指標とを組み合わせ統合的な解析を行うものである。 本年度は、まず健常者を対象に記憶に関わる事象関連電位指標を用いた二つの実験を行った。 実験1:同意の得られた健常対象者12名を対象に事象関連電位の測定を行った。実験は、漢字とかなの文字刺激を比較するもので、事象関連電位の単語反復効果への影響を評価した。実験の結果、かなは漢字より陰性の電位を表し、直後反復の早期成分では、かなの方が漢字よりも反復効果が大きかった。これはかなと漢字の違いが反復効果に影響したものと解釈された。 実験2:反復効果に対する刺激の提示時間の影響を見るために、同意の得られた健常対象者12名を対象に150ms、300ms、600ms、の3つの提示時間での比較を行った。結果、提示時間が延長するにしたがい、反復効果が減弱することが分かった。これは提示する刺激が反復効果に干渉するためと考えられた。 また、精神分裂病者に対しては予備的な実験を行っている段階であるが、現在以下の実験を行っている。 実験3:精神分裂病患者に対して、(1)記憶評価のためのバッテリーテスト(想起・再認記憶評価、潜在・顕小記憶評価、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト等を含む)の施行と、(2)Bonn大学基底症状尺度の施行、(3)一般的な精神症状評価(簡易症状評価尺度、陽性・陰性症状評価尺度)や知能検査等の施行を行い、症例を増やしているところである。
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