研究概要 |
(1)各年代と性別におけるオレキシン(OX)値の推移では、男性157名と女性115名で計272名の人の検体を測定した。年齢分布は生後2週間から79歳である。男性と女性の間で有意な差は認めず、また世代間での有意差も認めなかった。ナルコレプシーの5人の患者(6-68歳)は全例で測定限界(40pg/ml)以下であった。0歳児が12人含まれていたが、成人と同様の値であった。様々な疾患の検体の中でも、ギランバレー症候群(GBS)を除けばナルコレプシーでのみOXが低下していることは非常に特徴的なことであった(Sleep in press)。今後はOXの減少がいつ起こるのか興味が持たれ、ナルコレプシーの病態の理解に役立つと考えられる。 (2)自己免疫性神経疾患におけるOX値の研究では、17人の患者から脳脊髄液の提供を受けた。GBSが10人、多発性硬化症が7名である。対照患者群として、計30名の患者を選んだ。脳脊髄液中のOX値は対照患者とこれまでに報告されている健常人(280pg/m)では差が無く、多発性硬化症の患者も対照患者と差がなかった。一方GBSの患者では対照患者と比べて有意にOX値が低下していた(p<0.01)。しかしながら測定値の分布は大きく、正常値の患者もみられた。200pg/mlで区分するとGBSの患者では10名中4人が200pg/ml以下であり、一方、対照患者と多発性硬化症の患者では37名中の1名のみが200pg/ml以下であった(Psychiatry Clin Neurosci, in press)。 現在も検体を集めており、GBSが計23検体まで増えているが、4名がナルコレプシーと同様に測定限界以下であった。低値の症例は重症例が多いことと、症状の改善と共にOX値も正常化することが判明している。自己免疫疾患であるGBSにて髄液中のOX値の一時的な低下の機序を明らかにすることを通じて、ナルコレプシーでの永続的な脱落の原因解明の一助になると考えている。
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