精神分裂病のモデル動物脳におけるBDNFの変化 これまでの予備的研究では、フェンサイクリジン(PCP)の反復投与による脳内BDNFタンパク量の増加を観察していた。この変化は後部帯状回に限局したものであり、投与終了から1週間後には消失するため、一過性のものと考えられた。そこでまず同用量(10mg/kg)のPCP単回投与によるBDNFの急性の変化について検討した。その結巣、PCP投与12時間後には後部帯状回だけでなく、前部帯状回、前頭前野、頭頂葉、嗅内野と大脳皮質の広い範囲で有意に増加していることが分かった。そして投与24時間後にはBDNFの有意な増加は後部およぴ前部帯状回でみられるのみとなっていた。したがって帯状回はPCPによるBDNFの発現増強について感受性の高い部位であり、反復投与後にみられる変化もこの高い感受性の結果と考えられた。これらの結果から、成熟ラットの脳内BDNF発現に対するPCPの効果は急性効果であり、反復投与による慢性の変化は起こらないものと推察された。また、NMDA受容体のε2サブユニット遺伝子が欠損したマウスでBDNFを測定すると、90日齢においても大脳皮質の全部位と海馬でBDNFの著明な発現低下がみられた。この所見は、同じNMDA受容体を薬理学的に阻害するPCPの効果と一見矛盾している。しかしこの矛盾には脳の発達・成熟過程が関与している可能性がある。今後は幼若ラットにPCPを投与し、脳の発達・成熟過程がBDNF発現におよぼす影響を検討する予定である。
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