研究概要 |
覚醒剤逆耐性現象メカニズムとして腹側被蓋野(VTA)から側坐核(NAC)へのドパミン(DA)神経伝達異常が考えられている.VTA-NAC神経回路のメカニズムを研究する目的で毎日VTAを電気刺激し覚醒剤(メタンフェタミン)に対する反応性を検討した。8週齢の雄性SD系ラットを使用し、ペントバルビタール麻酔下に両側VTAへ2極のステンレス製慢性深部電極を脳定位的に挿入手術した。術後1週間は回復期間とし、ハンドリングおよび観察ケージに十分馴らした。刺激前日の21時にラットを観察ケージに入れ、翌日に行動観察をおこなった。刺激条件は100Hz、2秒間の2相性矩形波を用い、10〜100μAまで10μA刻みで少なくとも3分以上の間隔をおいて両側刺激し、高頻度電気刺激に対する反応性を評価尺度に従い評価した。頚部の捻転やけいれん様の反応を示したものは除外した。十分な反応が得られたラットにMAP2mg/kgを腹腔内投与し、自発運動量の変化を赤外線感知器を用いて定量化した。キンドリングは100Hz,2sec,100μAの強度で1分間隔で1日20回刺激し、これを14日間反復した。最終刺激が終了して2週間後に再びMAP2mg/kgを腹腔内投与し、自発運動量を赤外線感知器にて計測して刺激前のものと比較した。VTAキンドリング前にはMAP投与によって約10分後より自発運動量が増加し、基礎値にもどるまでは数時間を要した。一方VTAキンドリング後には、同様に10分後より自発運動量が増加し、キンドリング前よりも増加傾向を認めた。また、MAP投与後240分間の自発運動量の合計をVTAキンドリング前後で比較すると、それぞれ6641±2030、8381±1307でありVTAキンドリング後には有意に自発運動量が増加していた。 今回の結果から、中脳-辺縁系ドパミン系を特異的に反復電気賦活することで、MAP投与後の自発運動量の増強が2週間わたり観察された。この効果は、VTAキンドリングによって中脳-辺縁系機能の持続的変化が生じ、ドパミン系の過敏反応が出現した可能性がある。VTAへの覚醒剤反復微量注入によって逆耐性現象が生じたという過去の報告を考慮すると、精神病状態の発現機構に、VTAを中心とした神経回路の可塑的変化が重要であると考えられた。
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