アルツハイマー病における神経細胞死の原因としてベータアミロイドタンパク(Aβ)による細胞毒性が考えられており、さらにその毒性の背景にはフリーラジカルが関与しているといわれている。平成13年度にはPC12細胞培養系を用いた実験系においてβアミロイド誘導性ラジカルの捕捉について検討を行った。実験方法は約1週間37℃でagingというプロセスを経たβアミロイドペプチド(25-35)加えた培養液でPC12細胞を24時間培養させ、発生するラジカルを各種スピントラップ剤により捕捉することを試みた。DMPOによりハイドロキシルラジカル(・OH)を、精製したPOBNにより不飽和脂肪酸過酸化過程の指標である脂肪酸ラジカル(・L)を電子スピン共鳴装置(ESR JEOL TE100)を用いて捕捉することができた。一方アルツハイマー病大脳の老人斑に存在するラミニンはAβの凝集を抑制し神経細胞保護作用を発揮すると考えられている。そこでラミニンのフリーラジカルに対する消去能と抗酸化能を調べる目的でESR法を用い、Fenton反応と過酸化水素水-紫外線照射による・OH生成に対する抑制効果について実験した。比較対象としてファイブロネクチン、牛血清アルブミン(bovine serum albumin ; BSA)を使用した。Fenton反応から生じる・OH生成への抑制効果は群問で差はなかったが、紫外線照射系ではラミニンが他に比べ顕著に高いラジカル消去能を示した。これらの結果は脳組織にいてAβ凝集抑制作用を有するラミニンは同時に高い脳内抗酸化能を有して、その神経細胞保護作用を発揮している可能性を示唆するものと考えた。
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