本年度の研究成果は以下の通りであった。 まず、二次性に概日リズム睡眠障害(睡眠相後退状態)を呈した一対人恐怖症例に対して、入院森田療法を施行し、その臨床経過を携帯型活動計などを用いて検討する経験を得た。その結果、活動計から得られる客観的な指標を、同時に施行する睡眠日記、VASあるいは各心理テストによる主観的な指標と比較し、臨床像および臨床経過と併せて検討することによって、入院森田療法の生物学的側面に関する新たな知見にたどり着く可能性があると思われた。次に、神経質性不眠症の一症例に対して、入院森田療法を施行し、その臨床経過を精神生理学的に検討した。症例の呈していた睡眠に関する主観的評価と客観的評価の間の著しい解離現象は、入院森田療法を施行することによって是正された。この治療効果の判定には、睡眠日記や活動計などの精神生理学的指標を検討することが有用であった。症例の入院治療経験を通して、森田療法的接近として有用であったのは、1)客観的指標の測定および本人への呈示、2)薬へのとらわれに対する不問技法、3)不眠の裏にある生の欲望を別の言葉でイメージさせる、4)治療を展開させるための睡眠衛生教育などの点であり、重篤な慢性不眠症患者に対しては、睡眠衛生教育にとどまらない精神療法的接近が不可欠であると考えられた。 これらの知見を元に、さらに来年度以降に症例数を重ねることによって、入院森田療法の精神生理・時間生物学的側面に関する理解が深まると考えられた。
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