致死量X線を照射し、造血幹細胞を枯渇させたマウスから一定間隔で末梢血測定をおこない、骨髄、脾臓、肝臓をとりだし、サイトカイン等の発現をRT-PCR法で確認するとともに、血清中におげるサイトカインの濃度をELISA法で測定した。致死量X線照射後、Sca-1(+)造血幹細胞を移植したマウスでは6日目あたりから末梢血中の有核細胞は増加に転じる事を確認できた。末梢血中の有核細胞が上昇に転じる少し前の状態は、造血の『場』である造血微小環境において造血幹細胞の増殖にはたらく『場の力(バイアス)』は、この細胞からの分化を誘導する『場の力(バイアス)』よりも強いことが想定された。この時に働くサイトカインを特定できれば造血幹細胞のin vitro expansionをより有効に制御できると考えられる。そこでまずはじめの取り組みとして各種サイトカインなどの発現をRT-PCRによって検討した。その結果、有意に遺伝子の発現が上昇したのはSCF( stem cell factor )であった。しかし血清中のサイトカイン濃度を測定した結果からはSCFの増加はそれほど顕著ではなく、flt3-ligandの顕著な濃度上昇が認められた。SCFの発現が誘導されるのにも拘わらず、血清中濃度が上昇しない原因は、膜結合型のSCFの発現が誘導されるためであると判明した。しかしながら、両サイトカインの濃度は通常の造血幹細胞のin vitro expansionで用いられる濃度よりも遙かに低かったため、未知の幹細胞増殖因子の存在が強く示唆された。そこで、この時の血清を用いてSca-1(+)造血幹細胞の増殖を試みたところ、このマウスの血清中に造血幹細胞の増殖活性を認めた。 以上をまとめ報告した。
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