平成13年度はt(4;12)(p16;p13)を有する末梢性T細胞悪性リンパ腫における転座切断点と融合遺伝子の発現をFISH法およびRT-PCR法を用いて解析した。FISH法による解析の結果、4p16転座切断点にはfibroblast growth factor receptor 3 (FGFR3)が、12p13切断点にはETV6が存在し、転座の結果ETV6-FGFR3融合遺伝子が発現していることを明らかにした。融合転写産物は塩基配列解析の結果、ETV6のhelix-loop-helix (HLH)ドメインにリガンド結合領域を欠いたFGFR3のチロシンキナーゼドメインがインフレームに融合を起こしていることが判明した。通常、受容体型チロシンキナーゼであるFGFR3は造血細胞には発現していないが、FGFR3のC末に対する抗血清を用いた免疫組織染色により、患者リンパ節においてFGFR3が強発現していることが明らかになった。 以上より本転座ではE7V6のプロモーター活性によって異所性に発現したFGFR3がHLHを介したホモオリゴマー形成により、リガンド非依存性に相互的リン酸化を生じ、恒常的にチロシンキナーゼが活性化することが発癌の原因として考えられ、同内容をCancer Researchに報告した。平成14年度は患者検体より得たE7V6-FGFR3融合遺伝子を、ほ乳類発現ベクターに組み換えて、IL-3依存性マウスB細胞株(BaF3)に遺伝子導入し安定発現細胞株を作成した。その結果、ETV6-FGFR3安定発現細胞株ではIL3非依存性に自律増殖することが明らかになり、IL-3添加によっても、その増殖活性には影響は認められなかった。以上より新規転座t(4;12)(p16;p13)により発現するETV6-FGFR3融合遺伝子は形質転換能を有し、発ガンに寄与していると考られる。今後はFGFR3の恒常的チロシンキナーゼ活性化の機構を更に検討していく予定である。
|