AML1 (Runx1)という転写因子の遺伝子破壊マウスでは、AGM領域から造血幹細胞が発生してこないために胎生致死となる。AML1の造血幹細胞発生における役割を知るために、まずAML1ノックアウトマウスのAGM領域に由来するヘマンジオブラスト様細胞株AML1(-/-)HBLをSV40温度感受性T抗原をコードするレトロウィルスを用いて樹立した。次に、ドキシサイクリン誘導性プロモーター下にAML1 cDNAを配置したコンストラクトをAML1(-/-)HBL細胞株に導入し、ドキシサイクリン添加によってAML1を発現誘導させたときに発現変動する遺伝子群をRDA (Representative Differentiation Analysis)法を用いて探索した。その結果、Insulin-1ike growth factor binding protein 3 (IGFBP3)のmRNAがAML1により発現抑制されることを発見した。このIGFBP3 mRNAの発現抑制はAML1をコードするアデノウイルスベクターをAML1(-/-)HBL細胞株に感染させることでも再現された。IGFBPファミリーは6種類知られているが、このうちIGFBP3、IGFBP6の両者がAGM領域に発現しており、両方ともにAML1により発現抑制された。また、IGFBP3を骨髄造血幹細胞の初代培養系に添加したところ、骨髄球系造血前駆細胞の増殖能が低下した。したがって、AML1はIGFBP3/6の発現量を下げることにより造血前駆細胞の増殖を正に制御していることが示唆された。
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