転写因子GATA-3の自己免疫腎炎における機能及び役割を解明するため、Th1/Th2バランスの破綻によりTh1優位な自己免疫腎炎モデルにTh2側への誘導をもたらすGATA-3を過剰発現させ、病態に及ぼす影響を検討した。 1、T細胞分化全般にGATA-3を発現するトランスジェニックマウスの作製。CD2プロモーターの下流にGATA-3を挿入したトランスジーンを作製し、トランスジェニックマウスを2ライン作成した。得られたマウスについてはサザンブロット法およびウエスタン法によりトランスジーンとGATA-3蛋白の発現を確認した。その後、マウスをC57BL/6にバッククロスし、さらにTh1モデルマウスであるBXSB/MpJ-Yaa(Yaa)マウスと掛け合わせた。 2、Yaaマウスと掛け合わせ、生まれた雄マウスについて生存率及び以下の項目を週令30週にて検討した。蛋白尿、血清クレアチニン、血清免疫グロブリン、血清サイトカインと細胞内サイトカイン。 結果:YaaマウスはGATA-3遺伝子導入により、生存率が延長した(50%生存率31週から41週へ)。蛋白尿は減少し、血清クレアチニンの低下も認められた。血清学検討ではTh2側の免疫グロブリンIgG1の上昇、Th1側の免疫グロブリンIgG2aの低下、及び血清IFN-γの低下が認められた。また、脾臓から採取したCD4陽性T細胞をCD3抗体+CD28抗体添加下で1週間刺激して、サイトカイン産生をフローサイトメトリーで観察したところ、遺伝子導入マウスはTh2側サイトカインIL-5の強い産生とIFN-γの産生抑制が認められた。以上の研究結果からGATA-3の過剰発現によりYaaマウスではTh1優位な背景が抑制され、腎炎の進展緩和が認められた。現在、Yaaマウスの自己抗体を引き続き検討中である。 本研究より得られた知見から転写因子の制御により自己免疫腎炎の病態解明と疾病治療への応用の可能性が示唆された。今後は、本研究実績をまとめ、学術雑誌に報告の予定である。
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