細胞死誘導療法による糸球体腎炎治療戦略の開発を目指した当初1年間の基礎的検討として、1)糸球体腎炎組織に主として発現するdeath factor/death receptorと主発現細胞の同定、その発現の臨床的意義の検討、ならびに2)培養細胞を用いたdeath factor/death receptor発現機序の解析、を行った。方法論として免疫粗織化学、ELISA、細胞培養、Multiplex RT-PCRなどの手法を用いて研究を進めた。その結果、1)ヒト糸球体腎炎のうち特にループス腎炎組織においてFas ligand蛋白の発現亢進がみられることを明らかにした。Fas ligandは炎症性変化の著しい増殖性ループス腎炎において腎炎活動性上昇に伴い発現が亢進しており、主たる発現細胞は糸球体固有細胞ではメサンギウム細胞、炎症性浸潤細胞ではCD8陽性T細胞であった。ループス腎炎糸球体では炎症性病変とともに細胞死(アポトーシス)が存在するため、Fas ligand発現が炎症病変形成や炎症巣におけるアポトーシス誘導に関連する可能性が示唆された。2)この知見を元に培養細胞を用いた細胞生物学的研究を行った結果、ループス腎炎糸球体で発現しているサイトカイン(IL1、IFN、TNF)やLPSなどの炎症性刺激下においてメサンギウム細胞が膜型Fas ligandを発現することが明らかとなった。またマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の共存により表症性刺激下でFas ligandが可溶性となり放出されることが判明した。ループス腎炎患者血中にはMMPが増加すること、またループス腎炎モデルマウス腎臓ではMMP遺伝子の発現亢進が報告されていることから膜型Fas ligandのみならず、MMPにより放出された可溶性Fas ligandも炎症形成やアポトーシス調節に関与している可能性が示唆された。
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