テストステロン処理によってラット雌新生児の脳の内側視索前野において発現誘導される遺伝子の同定を目的として、サブトラクションクローニング法によるスクリーニングを行った。テストステロン処理及び対照処理後のラット雌新生児から内側視索前野を単離し、それぞれに対応するcDNAを合成した。この2種類のcDNA産物を用いてビオチン化プライマー、ストレプトアビヂンならびにRDA法を用いたサブトラクションを行うことによって、テストステロン処理時に発現誘導されるcDNAの濃縮を行なった。ついで、上記サブトラクション後のcDNAをクローン化し、サザーンハイブリダイゼーションによるディファレンシャルスクリーニングを行い、テストステロン処理時に発現が上昇する遺伝子断片を持つクローンをさらにスクリーニングした。最終的に、in situ hybridization法を用いて、脳切片標本における各候補遺伝子の発現を検討した結果、候補遺伝子断片のうち現在のところ一種類において、雌新生児の内側視索前野におけるテストステロンによる発現誘導と無処理の雄新生児の内側視索前野における発現がみられた(2002年度分子生物学会発表)。これらの結果はラット新生児脳内側視索前野においてテストステロンによって発現誘導される特定のmRNAの存在を明らかにし、また今後、本mRNAの発現ならびにその蛋白質産物の機能解析を行うことによって、脳の性分化機構を明らかにするための一つの分子的手がかりを得たと言える。
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