ヒト下垂体性小人症は、下垂体前葉ホルモンの欠損を特徴とするもので、これまでにPOU1F1やPROP1といった下垂体特異的転写因子においてその遺伝子異常が報告されてきた。しかし、その一方でこれらの遺伝子に異常が見られない症例も報告されている。我々はロシア連邦のモスクワ内分泌研究所との国際共同研究で、最近同定された新しい下垂体転写因子であるHESX1やLHX3における遺伝子解析を、これまで遺伝子異常がみられなかった症例を対象として行った。末梢血から採取した染色体DNAを用いたシークエンシングの結果、すべての症例においてHESX1及びLHX3の遺伝子異常は報告されなかった。これまで、両遺伝子の変異を持つ症例の頻度は比較的低いことが報告されてきており、またHESX1について中隔欠損症(Septo-Optic Dysplasia)、LHX3については頚の固定を合併する複合型下垂体と特徴的な臨床症状を持つものに異常が報告されてきた。今回我々が遺伝子解析に供した症例も同様の臨床所見を持つものであったにもかかわらず、遺伝子異常がまったく見られなかったということは、下垂体性小人症の原因としてのこれら二つの転写因子異常が極めて稀であることを示唆するものである。 最近になって、PROP1遺伝子の遷延性発現によって性分化障害が引き起こされ、さらには下垂体腫瘍のリスクが高まるということが、動物モデルにて証明されている。そこで我々は次年度において、ロシア連邦及び本邦の下垂体腫瘍症例における性発育の評価をretro-spectiveに評価し、さらにPROP1の発現を、摘出標本を用いて観察することで、PROP1がヒトにおいて性分化、及び下垂体腫瘍発生に関わるメカニズムについて調査を行う予定である。
|