ステロイドホルモンが標的細胞でその機能を発現するにはまずその受容体との結合が必要となる。グルココルチコイド受容体(GR)、プロゲステロン受容体(PR)においては、脂溶性リガンドとの結合能を獲得するためには受容体が合成された後にhsp90をはじめとする分子シャペロン系の協調作用によりステロイド結合領域の疎水性部位が開かれることが必要である。一方、ステロイドホルモン受容体に属するビタミンD受容体(VDR)がリガンドと結合する際に同様の機構が関与し、受容体の構造および機能の変化がもたらされるかは明らかではない。今回の研究ではVDRがリガンドとの結合能を獲得する過程にGRやPRにおけるのと同様な分子シャペロン系の作用機構が存在しているかどうか生化学的なアプローチを試みた。従来VDRが細胞の粗抽出液中では非常に不安定な蛋白質であると報告されてきたが、これまでの研究により、免疫沈降法で生成されたVDRは生理的温度ではリガンド結合能を失わず非常に安定であることが分かった。また、熱変性を受けてリガンド結合能が失われたVDRがウサギreticnlocyte lysate(RL)によりリガンド結合能が復元されることを示す実験系、reticulocyte lysate renaturation systemを確立し、この復元がATP依存的、K^+依存的な現象であること、また、この実験系の作用にはhsp70が必須であることを見い出した。一方、この実験系ではGRで得られた結果とは異なり、hsp90は関与していないと考えられた。さらに、RLに含まれる、hsp70以外の何らかの因子がこの系に関与しており、hsp70の機能に対し触媒的に作用することを示唆する実験結果も得た。また、実験結果からhsp70の内在性ATPaseを触媒的に活性化することが知られるhsp40がこの候補に挙げられることが強く示唆された。今後はGRやPRなどで一般的に用いられている受容体の過剰発現系を用い、さらに研究を発展させたい。
|