効果的で安全な遺伝子治療には組織・細胞を標的する技術の開発が必要である。そのため従来法の欠点であった大量生産・抗原性の問題を克服するヒト型組換え抗体を利用したシステム「組換えイムノジーン法」を考案した。本研究ではより高い遺伝子導入効率および生産効率を目指しさらなる改良を加えている。まず遺伝子導入効率を上げる目的で抗体とDNAとの結合を強化するため、新規に2種の荷電性テールをもった一本鎖抗体(組換えイムノポーター)遺伝子を作製し、酵母菌での分泌および精製に成功した。これと正電荷高分子ポリエチレンイミン(PEI)を用いた遺伝子導入効率はリポフェクション法と同等かそれ以上であった。また、遺伝子導入は培地に添加したモノクローナル抗体によって阻害されたことから、組換えイムノジーン法による遺伝子導入は一本鎖抗体依存的であると考えられた。HSV-tk遺伝子を導入すると、ガンシクロビルに対する感受性が100-500倍上昇した。核移行シグナルペプチドをプラスミドに結合させたが、遺伝子導入効率の上昇はみられなかった。抗体・DNA複合体「イムノジーン」の細胞内動態を検討した結果、遺伝子導入効率を上昇させるには核膜の通過および核内部でのDNAとPEIの解離の効率を上げることが重要であると推測された。生体内の網内系への非特異的吸着を防ぐ目的でポリエチレングリコール修飾PEIを作製しイムノジーンに応用したが、抗体依存的導入効率が下がった。この原因はDNA(またはDNA・PEI複合体)と結合が現状では弱いためと推定された。すなわちDNA(またはDNA・PEI複合体)との結合が強くかつ酵母菌体からの分泌を妨げない(発現効率が落ちない)荷電テールの開発が必要であることを示唆している。そのため現在も改良を続けている。また、ポリエチレングリコール修飾以外の方法も検討している。
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