現在、遺伝子治療のための遺伝子キャリアーとして実用化されているのは組換えウィルスベクターや合成リポソームである。しかし、種々の欠点のため臨床治験では限られた効果しか報告されていない。これらの欠点を克服し遺伝子治療の潜在的な能力を引き出すため、当研究室では新しい遺伝子キャリアーとして「モノクローナル抗体/DNA複合体(イムノジーン)」を独自に開発し、個体レベルでの遺伝子治療法を目指している。最近、抗体分子の化学的修飾を必要としない一本鎖抗体を利用した「組換えイムノジーン法」による遺伝子導入に成功した。またその抗体のヒト型化にも成功した。本研究ではより高い遺伝子導入効率および生産効率を目指しさらなる改良を加えている。種々のDNA結合性テイルを持つ人工抗体「イムノポーター」を作製し、酵母菌での分泌効率および遺伝子導入効率を評価した。このうち、負電荷テイル(Asp_4Ser)_5を持つイムノポーター遺伝子を選択し、産生条件および精製条件を最適化した。さらに、精製イムノポーターを用いて抗体・DNA複合体「イムノジーン」調製条件の至適化を行い、培養細胞に遺伝子導入を試みたところ、リポフェクション法に匹敵する結果が得られた。この成果に関しては論文印刷中である。また、免疫原性をなくして安全性を高めることにより反復投与を可能にするヒト型化抗体遺伝子を利用したイムノポーターの産生にも成功した。さらに、生体内での複合体安定性を高めると考えられる疎水的結合部位を導入し、酵母菌での産生効率を下げない短い新型テイルの設計・発現にも成功した。今後、担癌マウスを用いた遺伝子治療実験を行い、導入効率およびイムノジーンの生体内動態を検討する予定である。
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