ヒトゲノムプロジェクトによりゲノムの全配列が解読されようとしている今、ゲノム上に存在するすべての遺伝子の機能と相互作用、調節機構を解明することが新たな研究の主眼となっている。一方、発癌過程において複数の遺伝子異常が多段階に生じることは明らかであり、発癌機構解明のためには包括的遺伝子モニタリングなど新技術の導入が重要である。本研究は、主に動物発癌モデルを用いて食道癌の発癌過程における経時的な遺伝子モニタリングをDNAマイクロアレイにて行い、癌の遺伝子情報を包括的に解析することにより個性に応じたオーダーメード治療の確立を目指す。 N-nitorosobenzylmethylamine(NBMA)をF344ラットに投与すると食道のみにほぼ100%発癌することが報告されている(Garber et al. Carcinogenesis1997)。よって本研究では5週齢F344ラットを用い、NBMAを15回皮下注投与し、投与7ヶ月後より1ヶ月毎に食道サンプルを収集し検索を行う。これまでNMBA投与群とcontrol群について8ヶ月間の観察を行ったところ、control群(n=6)では発癌を認めなかったのに対し、NMBA投与群(n=6)では合計51個の食道扁平上皮癌発生が確認された。腫瘍の肉眼型としては、7ヶ月目までに発生した腫瘍27個はすべて平坦型であったのに対して、8ヶ月目に発生した腫瘍24個では20個(83.3%)が平坦型、4個(16.7%)が隆起型であった。今後は、さらに経時的にサンプリングを継続し、NMBA投与群の腫瘍組織から抽出したRNAを用いてDNAマイクロアレイによる各発育段階の遺伝子発現や変異のモニタリングを行い、食道発癌過程における遺伝子情報を包括的に解析する予定である。
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