ヒトゲノムプロジェクトによりゲノムの全配列が解読されようとしている今、ゲノム上に存在するすべての遺伝子の機能と相互作用、調節機構を解明することが新たな研究の主眼となっている。DNAマイクロアレイを用いた包括的遺伝子解析システムは癌の生物学的活性を分子生物レベルで把握する試みを可能とした。高価な設備と再現性等の問題はあるが、各臓器の癌に特徴的な遺伝子を含むDNA chipを作成することにより臓器毎の癌細胞に対する包括的遺伝子解析システムが癌の予知・早期診断・早期治療をさらに詳細なものとし、医療への寄与も大きくなると期待する。そこで、食道癌の生物学的活性を遺伝子発現解析により評価することを検討した。まず食道癌細胞株や術前無治療の食道癌切除標本におけるconnexin43(CNX43)遺伝子の発現解析を行い、CNX43の発現が認められないか低発現の細胞株や症例が認められた。CNX43 expression negativeの食道癌細胞株とCNX43 expression positiveのCNX43遺伝子の導入株の遺伝子変化をDNAマイクロアレイを用いた解析を行った。プロテアーゼ、細胞接着因子や薬剤排出の膜蛋白遺伝子の発現が低発現群、TIMP-2等のプロテアーゼ阻害因子、TopoisomeraseIIa遺伝子等が高発現群であった。食道癌においてconnexin43遺伝子の発現が認められない症例があり、高発現させることにより抗癌剤感受性規定因子や転移・浸潤関連因子群の遺伝子発現に変化が認められた。今後、癌の遺伝子発現を評価することにより診断及び治療法の決定に結び付けていきたい。
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