血管新生抑制に基づく消化器癌の腹膜播種性転移に対する遺伝子治療の可能性を明らかにするため、マウスモデルを用いて以下の検討を行った。 1.腹膜播種性転移初発部位としての腹膜リンパ組織の機能解析 これまで、当教室では乳斑と呼ばれる腹膜リンパ組織が腹膜播種性転移形成の初発部位となることを動物モデルを用いて明らかにした。今回、GFP (green fluorescence protein)遺伝子導入による蛍光発現を指標にマウス腹膜乳斑の機能を解析した。その結果、遺伝子導入腫瘍細胞株、宿主細胞(マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞など)をマウス腹腔内投与したところ、いずれも微粒子活性炭により黒染された乳斑への選択的な集積所見が認められた。また、GFP発現アデノウイルスベクター投与によっても、乳斑における選択的なGFP発現が得られることを見い出した。 2.微少腹膜播種性転移に対する血管新生抑制遺伝子治療 ヒト胃癌細胞株移植によるヌードマウス腹膜播種モデルを用いて、アデノウイルスベクター腹腔内投与による治療効果について検討した。治療遺伝子として、HGF(hepatocyte growth factor)アンタゴニスト活性とともに血管新生抑制作用を示すNK4を用いた。その結果、微少転移を示す移植後早期のアデノウイルス投与により、播種形成の抑制とともに生存日数の延長が認められた。抗腫瘍機序として、微少転移を示す乳斑における特異的なNK4発現による血管新生抑制が関与していることを明らかにした。
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