研究概要 |
DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の異常は散発性大腸癌などの消化器癌や卵巣癌など多くの癌で報告されている.現在,ヒトMMR遺伝子はhMLH1やhMSH2など7種類が同定されている.散発性大腸癌におけるMMR遺伝子異常の頻度を知るために,我々の作製した抗hMLH1および抗hMSH2抗体を用いて検索した.タンパク発現のない症例について遺伝子異常を調べたところ,約60〜70%の症例で翻訳領域やプロモーター領域に塩基配列の変異やメチル化など発現抑制に関わる異常を見出せなかった.このことから,これら遺伝子の転写調節機構に興味が持たれた.しかしながら,これらhMLH1やhMSH2遺伝子の転写制御に必要な領域(cis-element)および関係する転写因子(trans-acting factor)についてはほとんど明らかになっていない.本研究では,hMLH1遺伝子の転写機構についてcis-elementおよびtrans-acting factorの両面から明らかにすることを目的とする.まず,転写必須領域を特定し,更にタンパク結合部位を同定する.次に,同定された部位に特異的に結合するタンパクを単離同定するとともに,本因子の生化学的性状を調べることを計画した.本年度は転写領域の特定化とタンパク結合部位の同定に重点を置いて研究を行った. まず,転写必須領域を特定するために,様々な長さのプロモーター領域を組込んだreporter plasmidをhMLH1発現ヒト大腸癌細胞株SW620に導入し転写活性を比較した結果,領域-301〜-76が転写に必須であることが示された.次に,同細胞株を用いてin vivo footprintingを行ったところ,本領域中に6ケ所のタンパク結合部位(FP1〜6)が特定化された.また,ホモロジー検索によりこれら6部位以外にCCAAT配列が見出された.SW620核抽出物を用いたゲルシフト解析から,本領域中のCCAAT配列に結合する蛋白の存在が確認された.転写調節に対するこれら7部位の重要性を調べるために,これら部位の塩基配列を変異させたreporter plasmidを構築した.SW620での転写活性を比較した結果,3部位(FP3,FP61,CCAAT-box)がそれぞれ転写に必須であることが明らかとなった.今後,これら部位に結合する転写因子を単離同定する予定である.
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