研究概要 |
1.癌の付着について 術後のサイトカインや内因性グルココルチコイドの産生は術後の免疫能や臓器における接着分子の産生に関与し、腫瘍の転移の形成に深く関与していると考えられる。雄のDonryu ratを1)小切開による開腹群2)大切群による開腹群,3)大切開+術前メチルプレドニソロン(MP)腹腔内投与、4)大切開+術前corticotropine releasing factor受容体拮抗剤(CRF-at:日本たばこ産業株式会社JTC-017)投与群の4群に分け、開腹術後に125I-deoxyuridineで標識したAH-109A細胞(ラット肝癌腹水細胞)を門脈注入し、術後5時間に犠死せしめた。血液、肝臓、肺を採取し、放射線量をγカウンターで計測した。MP(10mg/kg)とCRF-at(10mg/kg)の投与は術前30分前に施行した。【結果】肝臓においては大侵襲群が小侵襲群より腫瘍細胞の付着率が有意に増加した。血液や肺への癌細胞の付着率は4群間に差異を認めなかった。MP群は肝臓の腫瘍細胞の付着率が他の3群に比べて有意に増加した。CRF-at群の肝臓への腫瘍付着率は大切開群やメチルプレドニゾロン投与群に比べて有意に減少した。 2.癌の付着に対する免疫能の影響 上記4群における癌細胞の付着に対する免疫能を評価するため、全群のNatural Killer(NK)細胞活性を測定した。全群の術後30分、5時間後の脾臓を摘出し細切した後、chromiumで標識した標的細胞Yac-1を用い、NK細胞活性を評価した。【結果】術後30分では、癌細胞の付着率と同様に大切開群は小切開群より有意に低下し、MP群ではさらに抑制されていた。しかしCRF-at群ではNK細胞活性は小切開群と同様に維持されていた。術後5時間後には各群間に有意差を認めなかった。【今後】手術侵襲により生体における癌細胞の付着率が増加する事が示され、それらはNK細胞活性の抑制による事が示唆された。NK細胞活性には、ステロイドホルモンの影響の可能性が示された。
|