系統的糖鎖解析法を用いて、健常人(n=12)と非小細胞肺癌患者(n=14)血清内に発現しているN結合型糖鎖構造を解析した。GlycoPrep(自動糖鎖切断装置)を用いてヒドラジン分解にて蛋白から糖鎖を切断し、GlycoTag(自動糖鎖標識装置)で蛍光標識した。ノイラミニダーゼによりシアル酸を取り除いて中性糖鎖にした後、順相HPLCと逆相HPLCを併用してそれらの溶出時間から2次元マップを作成した。既知構造糖鎖の2次元マップ上の位置と比較することにより、血清内に含まれる糖鎖を同定した。健常人血清と非小細胞肺癌(NSCLC)患者血清に含まれる糖鎖構造を比較検討することで、NSCLC患者特有の構造を検索した。 ヒト血清中に発現しているN結合型糖鎖の30種類、84.1%の構造が明らかにできた。血清中糖鎖は、各々の構造の含有率のばらつきが少なく、その発現は極めて厳しく制御されていた。健常人とNSCLC患者血清に発現している糖鎖を比較検討すると、NSCLC患者血清に有意に多く発現している構造が認められた(p<0.01)。その構造は、トリマンノシルコアのα1-6側にGalβ1-4GlcNAcβ1-2が結合し、α1-3側にGalβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-4とGalβ1-4GlcNAcβ1-2が結合した形の非還元末端にフコース側鎖を有する3本鎖糖鎖(A3G3Fo)と2次元マップ上で一致した。酵素消化法を用いて、この構造を確認した。このA3G3Fo構造の含有率は、血清SLX値、炎症反応、肝機能とも相関を認めなかったことから、他の臨床検査値とは独立した腫瘍マーカーとなりうる可能性が示唆された。
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