現在までに、ヒト肺腺癌細胞株と肺腺癌切除症例15例で糖鎖結合タンパク発現の検討を行った。臨床サンプルにおいて、SDS-PAGEおよびpeanut agglutinin(PNA)を用いたlectin blotsを行い、腫瘍組織と正常組織でのPNA認識糖タンパク発現を比較検討したところ、約7割の症例において正常肺組織で分子量約69kDa、200kDaのbandの発現増強を認めた。一方、腫瘍組織での同bandの発現は認めなかった。体液成分の影響は否定され、肺組織由来の糖タンパクの癌化によるdownregulationが示唆される。今後、腫瘍組織を分画し、細胞局在部位を確認すると同時に、このbandの発現の変化が、糖鎖構造の変化によるのかタンパク量の変化によるのかを検討する。また、他の組織型の肺癌あるいは他臓器癌でも正常組織・腫瘍組織で比較し、この糖タンパクが、肺特異的であるか否かも確認する。更に、正常肺組織から全タンパクを抽出し、affinity columnに通して正常組織で発現を認めるPNA認識糖タンパクの精製を試みる。精製後、SDS-PAGEおよびlectin blotsにて同分子であることを確認し、peptide sequenceを解析し、標的糖タンパクのアミノ酸配列をdata baseから同定する。また、対象症例を増やしてこのPNA認識糖タンパクの発現の変化と臨床病理学的因子との関連についても併せて検討していく。 本実験系にて、PNA認識タンパクとは別に、腫瘍組織で発現増強しているタンパクをSDS-PAGE後のゲル染色で確認した。ほぼ全例で増強しており、分子量約60kDa。このタンパクは、癌化によるupregulationが考慮され、これについても今後、検討予定である。
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