研究概要 |
胸腹部大動脈瘤に対する外科手術の進歩はめざましく、その手術成績は確実に向上しつつある。しかし、依然として6〜10%の頻度で対麻痺という重篤な合併症が生じることも事実である。動物実験の心筋においては、保護標的臓器以外の臓器に虚血・再潅流操作を加える、いわゆるremote ischemic preconditioningにより心筋梗塞のサイズの縮小が可能であるとの報告があり、脊髄においても同様の効果が得られれば、胸腹部大動脈瘤手術時の脊髄保護法の一助となりえると考えられる。 今年度は,日本家兎対麻痺モデルを用いremote ischemic preconditioning(R-IPC)発現の確認、従来のischemic preconditioning(IPC)法による脊髄保護効果との比較を行った。R-IPCを施した個体においては、操作直後より脊髄保護効果が認められるが、1)従来のIPCに比較をすると確実性が低い、2)48時間目で麻痺が生じる個体が存在することが判明した。1)に対しては、R-IPCの1操作(時間・間隔等)の方法を工夫することにより克服できる可能性ある。2)に対しては実際に臨床で経験するdelay typeの脊髄対麻痺に相似しており、現在髄腔圧の測定を含めこの現象の解明を行っている。また、R-IPCは何らかの体液性物質を介して作用している可能性が非常に高いため、今後はこの体液性物質等を含めR-IPCの機序に関し研究を進めていく必要があると考えている。
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