研究概要 |
本研究では,血液循環系の疾患治療に用いられる人工臓器の開発設計プロセスでの血行力学的評価の代替と,患者での手術前後の心臓血管系に与える力学的影響の検討を行える機械システムとして,工学的解析評価システムとしての血液循環シミュレータの開発研究をとくに人工血管置換前後の血行動態変化の力学的モデル化と工学的再現に着目して行った.臨床現場では,患者個々の心臓血管系の血行動態に対応させて外科的治療を進めてゆくことが要求されるが,本評価システムを用いることで,従来型の生体血管系の容量・抵抗要素をそれぞれ集中定数化した流体回路(ウインドケッセルモデル)では得られない,患者手術を想定して疾患部位に人工血管を装着し,心臓ポンプ機能にあたえる力学的影響を大動脈血管の外科的治療前に定量的に評価することが可能となる.はじめに健常成犬(体重18±3kg,6頭)を用いて,臨床におけるLehriche症候群の症例に対するaxillo-femoral bypassを想定して,ePTFE製人工血管を用いて大動脈弓部および総腸骨動脈分岐部直上部分にかけてバイパスを作成し,大動脈と人工血管を交互に切り換えて動脈系負荷を変動させ,心機能に対する影響を調べ,力学的モデルのための基礎データとした.つづいて,これらの実験から得られた血行力学的データにもとづいて,人工血管バイパスモデルを機械的モデルで再現した血液循環シミュレーションモデルにおいて,人工血管置換手術前後の負荷変動を入力インピーダンス(input impedance)において再現し,機械流体駆動式の人工左心室モデルに与えるポンプ負荷を調べ,定量的に力学的負荷変化として示すことができた.さらに,シミュレーションモデルの大動脈血管部の改良をすすめ,粘弾性特性を再現し,その特性を可変とした動脈血管モデルを新たに開発し,高血圧患者の血行力学的変化を定量的に模擬できた.最終的には,個々の患者のデータに基づいて,詳細な疾患部形状と血行動態データを再現し,術前に本システムを用いて患者心機能に与える影響を定量的に調べ,術後短期かつ遠隔期の治療効果を示しうる装置として,臨床での患者治療と直結した医工学的支援システムの開発に繋げてゆく.
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