聴覚を司る蝸牛神経は、ヒトが円滑な日常生活を営む上で必要不可欠な脳神経である。一方では、聴神経鞘腫の発生ないし摘出手術による聴力喪失、交通外傷による難聴発生など外的障害を被る機会が極めて多い脳神経でもある。聴力温存の試みとして、聴性脳幹反応および蝸牛神経複合活動電位モニタリングを用いた手術が行われているが、術後に残存聴力が失われてしまうことが稀にあり、温存できた聴力が術後次第に消失する事もある。このような経時的蝸牛神経障害の発生機序の一因として、ラセン神経節細胞の持続的脱落変性が明らかとなった。つまり、ラセン神経節細胞は2ないし3週間で脱落変性し、その後は変性が停滞する事が判明した(J Neurosurg投稿中)。しかし、ラセン神経節細胞脱落の機序については究明するに至らなかった。つまり、神経細胞脱落は壊死由来なのかアポトーシス由来なのか、DNA ladderingが生じているのか否か、脱落を防ぐ方法は存在するのか等の詳細な実験は行えなかった。 そこで、本科学研究費補助金の援助を得て、ゲル電気泳動によるDNA解析を行い、DNA ladderingの存在が確認された。すなわち、蝸牛神経節細胞脱落にはアポトーシスが関与している(投稿準備中)。今後、RNAとくにmRNAの発現確認・定量などを通して、ラセン神経節細胞脱落変性の遺伝子発現の検索および神経保護に有効な方策を検索して行く事が可能であると考えられる。
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