脳腫瘍患者に対し機能的MRI(fMRI)を臨床応用し感覚運動野および言語野の同定をおこなった。対象は感覚運動野、言語野近傍に病変を有する脳腫瘍患者31例(男性20例、女性11例、年齢21歳〜83歳、平均年齢:49.0歳)。組織学的には髄膜腫5例、海綿状血管腫1例、低分化性星細胞腫6例(以上を良性群)、退形成星細胞腫6例、神経膠芽腫7例、転移性脳腫瘍7例(以上を悪性群)であった。fMRIは1.5T臨床用装置を用いてblood-oxygen-level-dependent (BOLD)法にて施行した。感覚運動野同定のためのパラダイムはfinger tappingを用い、言語野同定のパラダイムは「しりとり」や「野菜・果物の名前」を声に出さず心の中で想起する語想起を用いた。結果、感覚運動野の同定は23症例中15症例(65%)で可能であり、17症例中8例(47%)で言語野に賦活部位を確認することができた。fMRIで賦活化される言語野はシルビウス裂を挟んで存在するBroca野やWernicke野、あるいは上前頭回、中前頭回、運動前野近辺に存在していた。良性群での感覚運動野の同定は8症例中7例(88%)、言語野の同定は7症例中4例(57%)で可能であり、悪性群では感覚運動野が15症例中8例(53%)、言語野が10症例中4例(40%)で同定された。以上から、悪性群では良性群に比べfMRIでの感覚運動野・言語野の同定が困難であることが判明した。この現象の原因の一つとして、悪性脳腫瘍周囲に存在する動静脈の短絡現象(arterio-venous shunt : A-Vシャント)の存在を挙げたい。悪性脳腫瘍では脳腫瘍周辺でのA-Vシャントの存在はよく知られているが、このようなA-Vシャントが腫瘍周辺の脳組織内にも存在すれば、当然ながら血中のoxy-Hbとdeoxy-Hbの濃度に異変が生じ、これがBOLD contrast値の低下を惹起する可能性が高いと考えられる。すなわち、A-Vシャントが存在するような悪性脳腫瘍では、BOLD法によるfMRIではeloquent areaの同定を正確に施行することが困難であり、今後の脳腫瘍患者へのfMRIの応用には注意が必要であると思われた。
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