悪性脳腫瘍、殊に悪性神経膠腫は従来のいかなる治療法によっても治療困難であり新たな治療法の開発を必要とする疾患の一つである。その中でも複製ヘルペスウイルスを用いた主要誘拐的遺伝子治療は現在もっとも注目される治療法である。我々は生体内の免疫機構がヘルペスウイルスの増殖を抑制している可能性があると考え、免疫低下状態を作り出し、ヘルペスウイルスが複製増殖し腫瘍細胞を融解できるかどうかを検討した。 まず、自然免疫及び獲得免疫下でのG207による細胞傷害作用の検討を行った。一般的に、ヒトへのHSV-1の感染率は70-90%といわれており、感染者はESV-1に対し獲得性の抗体を持っている。抗単純ヘルペスウイルス抗体保持者と、非保持者の血清を2-128倍希釈し、G207を加え37℃で1h免疫影響下においた後vero cellに感染させた。37℃、14h後にvero cellを固定しX-gal染色することで感染細胞数を算定、比較検討した。 結果として次の内容が得られた。抗単純ヘルペスウイルス抗体陰性血清群では4-8倍希釈血清でもG207感染を認めたが、単純ヘルペスウイルス抗体陽性血清群では32-64倍希釈より感染を認めた。血清中の抗単純ヘルペスウイルス抗体など液性免疫によりG207が不活化された、または細胞感染に障害を生じた、と考えられた。 つぎに免疫抑制剤の一つであり、既に臨床使用されているアルキル化剤(cyclophosphamide:CPA)を用い免疫抑制状態を作り出した。CPAは核酸代謝を阻害することにより活性化されたT細胞とB細胞の分裂を押さえると言われている。CPA投与群のnude mouse血清(2-128倍希釈)と、CPA非投与群のnude mouse血清(2-128倍希釈)を用いG207を加え37℃で1h免疫影響下においた後vero cellに感染させた。37℃、14h後にvero cellを固定しX-gal染色することで感染細胞数を算定、比較検討した。 結果として次の内容が得られた。Nude mouseであるため抗単純ヘルペスウイルス抗体は影響しない状態での免疫抑制において4倍希釈血清、8倍希釈血清ともにCPA使用群は有意にG207感染数の増加を認めた。 今後、invivoで悪性神経膠腫を移植したratを用い、全身免疫、脳内免疫抑制状態でのG207感染、増殖状態を非抑制群と比較検討する予定である。
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