本研究は術者が容易に腫瘍を識別し、腫瘍のみの摘出が可能となるよう薬剤による腫瘍の可視化を目的とした研究である。本薬剤の臨床投与を行い実際の症例を用いた同薬剤の臨床適合性を検討することが本年度の目的である。 基礎開発実験として大型動物(豚)を用いて5-ALAの静脈投与を行い、脳表面が発光している状態を作成した。照射光源として従来型のxenon光源に加え発光ダイオード、青色LEDを用いて波長405±5nmの精度の装置を開発した。これにより従来では肉眼での観察が困難な発色をより明瞭化することが可能となった。これに加え、発光部位のレーザー照射による腫瘍細胞の死滅を目的として、マイクロレーザーの試作機による照射実験を行った。到達深度を調整することができ、周囲の正常脳への影響の少ない限局した蒸散が確認された。 臨床研究として5-ALAの術前経口投与を行ったのち開頭を行い、腫瘍表面を露出した状態で術中MRIを撮影する。この発光部位および周辺組織を摘出し固定保存、これら組織の免疫組織学的検索(HE、GFAP、MIB-1染色など)を行い、MRI上の腫瘍と正常脳の境界領域の確認を行った。発光を示したのは核異型性などを持った異常細胞であり、同様に増殖能を示す異常細胞の存在も5-ALAによる発光の肉眼的判別によりほぼ正確に区別することができた。腫瘍内部の壊死を示す部位はMRIで造影剤の取り込みが見られず、5-ALAによる発光も観察されなかった。腫瘍壊死と血管閉塞による虚血壊死の組織での発光状態を比較したが両者とも発光は見られず、不均一な組織像を示す神経膠腫において腫瘍部位の5-ALAによる発光と、活動性を持たない細胞の発光の欠如が確認された。本結果は脳神経外科学会総会、脳腫瘍の外科学会にて報告した。次の課題として、これら装置を手術顕微鏡に組み込み、より操作性を高めた臨床実用機器の開発が必要となる。
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