研究概要 |
われわれは、骨軟部腫瘍、とくに骨肉腫の肺転移と軟骨肉腫に対する遺伝子治療の研究を行っている。以前より自殺遺伝子を用いた軟骨肉腫の遺伝子治療を研究していたが、今回そのメカニズム、特にbystander effectについて3次元培養を用いて検討した。(材料及び方法)軟骨肉腫の培養細胞株であるHCS-TGにたいして、ヘルペスのチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)を挿入したレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入した。それらの細胞を用いて以下の検討を行った。3次元培養はCellmatrix Type 1-Aを用いたコラーゲン・ゲル包埋培養法を用いて培養を行った。(1)抗ウイルス薬であるガンシクロビール(GCV)を各濃度で作用させその殺細胞効果をMTT溶液を加えcell countを行い検討した。(2)コントロールとしてβガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)を導入した軟骨肉腫細胞を用意した。その発現を見るために、X-gal染色を行った。それらを用いてbystander effectの検討を行った。HSV-tk遺伝子、lacZ遺伝子の導入された軟骨肉腫を1:0,5:1,2:1,1:1,1:2,1:5,1:10の割合でコラーゲン・ゲル包埋培養法を用いて共培養し10日間GCVを投与した。全細胞数に対しての致死割合を用いてその効果を判定した。 (結果)GCVの濃度が1μMで97%の殺細胞効果が認められ、10μMでは99%の殺細胞効果が認められた。bystander effectの検討では、1:10までの割合いではその80%以上の細胞に細胞死が認められた。 (考察及び結論)悪性腫瘍の遺伝子治療においてすべての細胞に確実に遺伝子導入することは困難である。その点においてbystander effectは重要な意味をしめる。今回Cellmatrix Type 1-Aを用いたコラーゲン・ゲル包埋培養法下でも軟骨肉腫においてbystander effectを認めた。bystander effectはこれまでも諸家が述べているように、gap junctionを通して隣接する細胞間でその代謝産物が運ばれることにより細胞死が引き起こされるといわれる。また、細胞死が起きるとき種々のサイトカインを放出し免疫系が関与するともいわれる。しかし今回コラーゲンという細胞間基質下でもbystander effectが認められたことより他のメカニズムの関与が考えられる。
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