脳虚血後に選択的神経細胞壊死に陥った海馬CA1領域の神経細胞には、アポトーシスによる神経細胞死も含まれていると推察されている。今年度は、アポトーシスに陥った神経細胞を確実に検出する手法について実験を重ねた。実験モデルは、両総頸動脈閉塞に全身性低血圧を併用するラット前脳虚血モデルを用いた。麻酔は1MACイソフルランを用い、脳温は頭蓋近傍温を正常温に制御した。虚血後はフェンタニル一笑気で2時間麻酔を維持し、その後ラットを覚醒させた。虚血5日後、ハロセン麻酔下に経心臓的ホルマリン投与で脳を固定した。脳標本を脱水、パラフィン固定し、TUNEL染色を行った。CA1領域の神経細胞死亡率は92±4%であり、その約50%がTUNEL陽性であった。しかし、染色性が悪く、判定が困難な細胞も多くあった。より確実なアポトーシス検出方法を求めて、ssDNA(single strand DNA)抗体を用いた染色方法を試みた。ssDNA染色法はTUNELに比較しアポトーシスの検出により特異的であるとされる。本染色での結果はTUNEL染色よりも優れ、上記プロトコールでのアポトーシスはTUNELと同様に約50%と推定された。しかし、本プロトコールでは壊死に陥らない事が知られている海馬歯状回において、ssDNA抗体は100%陽性であった。この所見が、歯状回神経細胞のアポトーシスを意味しているのか否か現時点では不明である。今後は対照群を設定し、アポトーシスによる神経細胞死へのイソフルランの影響、経時的な変化、そして、歯状回神経細胞の長期的予後について検討を進めたい。
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