本年度は正常成熟ラットより後根を付した脊髄スライス標本を作成し、実体顕徴鏡下で脊髄後角第2層(膠様質)ニューロンからブラインドホールセルパッチクランプ法により、同部位で観察される単シナプス性または多シナプス性興奮性(EPSC)・抑制性(IPSC)シナプス電流を記録し、記録チェンバー内に灌流投与したミダゾラム(静脈麻酔薬)およびカルバコール(ムスカリン性受容体作動薬)、ネオスチグミン(抗コリンエステラーゼ剤)の作用を観察した。脊髄後根は吸引電極を用いて刺激を行った。ミダゾラムは後根刺激により誘発される単シナプス性後根誘起EPSCの振幅に影響せず、多シナプス性EPSCの振幅を著明に抑制した。以上から、ミダゾラムは末梢組織から侵害情報が伝達される一次求心性線維に直接作用せず、抑制性介在ニューロンに存在するGABA受容体を介することにより膠様質細胞のシナプス後膜の膜抵抗を減じ、脊髄後角における興奮伝播過程で抗侵害作用を発揮するものと考えられた。また、力ルバコールおよびネオスチグミンは同様に後根誘起EPSCを変化させず、ストリキニン存在下で記録されるGABA誘起の自発性IPSC、ビククリン存在下で記録されるグリシン誘起の自発性IPSCの発生頻度を増加させた。またこの作用はムスカリン受容体受容体拮抗薬であるアトロピンで抑制された。このことから、カルバコールやネオスチグミンは脊髄膠様質細胞内において、ムスカリン受容体に作用することによりGABAやグリシンを含有する抑制性介在ニューロンの興奮性を増加させることにより、脊髄において鎮痛作用を発揮する可能性を示唆した。
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