脳虚血における麻酔薬物及び低温療法の脳保護作用に関しては様々な考察がされているが、その脳保護作用に関しては一致した見解は出ていない。そこで我々はラット胎児大脳皮質神経細胞培養を用いて虚血モデルを作成し麻酔薬物及び低温療法の脳保護作用を調べた。まず、臨床に際して頻用される静脈麻酔薬、プロポフォールの脳保護作用をNMDA及び一酸化窒素供与体暴露下において調べたが有為な神経保護作用は認められなかった。次に低温療法の脳保護作用を調べた。通常温度37℃、軽度低温32℃、中等度低温27℃、高度低温22℃、超高度低温17℃の5段階で温度設定を行い、培養神経細胞を無酸素状況下に6-48時間暴露した。通常温度での細胞生存率は低酸素時間が6時間以上でいずれの低体温群に比べて有為に低い一方で超高度低温群での細胞生存率は低酸素時間が12時間以上の条件下で他の低温群に比べ有為に低かった。軽、中等、高度低温群では低酸素暴露18時間以内では細胞生存率に有為差は見られなかったが、24時間では高度低温群の細胞生存率が有意に高かった。以上より低温療法による脳保護作用が確認された。注目すべきは超高度低温では神経細胞保護作用が他の低温群に比較して劣り、また低酸素状況が長時間に及んだ場合高度低温群が最も神経保護作用が強力であったという点である。次に現在、広く臨床使用されている麻酔薬であるチオペンタールナトリウム(TPS)を低温療法と組み合わせて使用し、その脳保護作用を調べたところ低温とTPSの複合療法はそれぞれの単独療法より効果が強く、24時間の低酸素暴露下では軽、高度低温療法に臨床使用量のTPSを投与することにより十分な神経細胞保護作用が得られた。また48時間の低酸素暴露では高度低温療法に臨床使用量のTPSを投与することにより十分な神経細胞保護作用が得られた。一方で超高度低温群では神経保護作用が不十分であった。
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