虚血性心疾患患者の冠動脈バイパス手術は近年増加し、内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術は確立された治療法として認識されている。しかしながら、内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術を受けた症例において運動負荷時に心筋虚血が発生する原因のひとつに鎖骨下動脈-内胸動脈冠動脈バイパス盗血現象の可能性が考えられている。しかしながら、鎖骨下動脈-内胸動脈冠動脈バイパス盗血現象発生時における心血行動態ならびに鎖骨下動脈から末梢動脈における血管抵抗の関与、さらには内胸動脈分岐部における狭窄の有無などその病態生理は明らかでない。現在、正常成人(非動脈硬化群5名:平均年齢26歳)と虚血性心疾患患者(動脈硬化群)において、超音波診断装置を用い前胸壁より内胸動脈の血流速度を測定している。その後上腕動脈圧迫による前腕虚血を5分間負荷し、急激に圧迫解除に伴う内胸動脈血流速度の軽時的変化を測定している。これまでの結果では非動脈硬化群では内胸動脈最大収縮期血流速度は圧迫負荷前(78±33cm/分;100%)圧迫負荷中(81±27cm/分;105%)、負荷解除3分後(69±21cm/分;90%)負荷解除5分後(87±40cm/分;111%)を示した。体血圧には変動は見られなかった。前腕の虚血負荷解除3分後に一過性に血流速度が低下し、5分後には反応性過剰血流反応が見られた。虚血性心疾患患者において、負荷前血流速度が48cm/分で低下していた。また、拡張期における急峻な血流速度の減少が特徴的で、拡張期血流速度の低下が見られた。この現象は血管のコンプライアンスの低下が関与していると考えられ、血管コンプライアンスの低下が鎖骨下動脈-内胸動脈冠動脈バイパス盗血現象の出現に関与していることを示唆する。今後、さらに動脈硬化群の症例を増やし、鎖骨下動脈-内胸動脈冠動脈バイパス盗血現象の病態生理を検討し、上腕虚血再灌流時における内胸動脈血流測定検査の臨床的意義を明らかにする。
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