社会の高齢化、癌に対する関心の向上、地域での検診の広がりによって前立腺癌の罹患率は年々増加している。前立腺特異的膜抗原(PSM)はモノクローナル抗体7E11-C5によってヒト前立腺癌細胞株LNCaPより分離された膜蛋白であり、1993年にそのcDNAがクローニングされた。申請者らは、前立腺癌組織と正常前立腺組織におけるPSMAとPSM'非共通部分266塩基の発現の差を利用し、in situ hybridizationを用いてPSMAは正常前立腺では基底細胞に特異的に発現しており、その発現量は前立腺癌細胞でより多く、また癌細胞ではその分化度が悪性化するほど発現量が増加することを証明した。また、ホルモン治療に抵抗性で、前立腺特異抗原;PSAがほとんど発現していない癌細胞ではPSMAの発現が逆に増加していることを明らかにした。この結果より、PSMAの発現が前立腺癌の悪性度、すなわち転移、遊走能と非常に密接に関与することが容易に想像された。本研究ではさらに、PSMが癌細胞の転移、浸潤に果たす役割を明らかにすることを目的に、まずPSMA geneをその発現がコントロール可能なベクターにサブクローニングし、正常前立腺癌細胞株PZ-HPV7にリポフェクション法を用いてを遺伝子導入に成功した。PSMAの発現をコントロールしながらその発現の有無による前立腺癌細胞の増殖速度、および遊走能の違いを検討する実験系を確立した。
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