プロテインCインヒビター(PCI)は、肝臓、腎臓や精巣などの生殖臓器で産生されるセリンプロテアーゼインヒビター(SERPIN)ファミリー蛋白質の1つで、血漿中では主として活性化プロテインC(APC)の阻害因子として、尿中ではウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(uPA)の阻害因子として、精漿中では、前立腺特異抗原の阻害因子として機能する。尿中PCIは、腎近位尿細管上皮細胞で産生されることが知られているが、その生理的意義は明らかではない。我々は、本奨励研究の補助の基、肝臓と共に主要なPCI発現臓器である腎臓でのPCI発現の転写調節領域に関して解析を行い、そのプロモーター領域としてはSp1結合部位が、エンハンサー領域としてはAP2結合部位が重要であることを明らかにしてきた。また、これまでに、腎臓で発現されるPCIの生理的意義に関しても検討を行い、62例の腎癌患者に関して全例で、腎癌部でのPCI発現が非癌部に比較して著しく低下すること、同様に、培養腎近位尿細管上皮細胞ではPCIの発現が認められるが、腎近位尿細管上皮細胞由来の株化腎癌細胞ではその発現は消失していること、さらに、PCI発現ベクターを挿入することにより作製したPCI強制発現株化腎癌細胞の浸潤能は、非発現株化腎癌細胞のそれに比較して著しく低下する事を見出した。本年度は、これまでの研究をさらに発展させ、株化腎癌細胞の浸潤能に対するuPAおよびPCIの役割に関して検討を行った。株化腎癌細胞はuPAを発現しており、その浸潤能は新たに添加したuPAにより促進され、抗uPA抗体により阻害された。また、株化腎癌細胞の浸潤能はPCIの濃度依存性に阻害され、PCI強制発現株化腎癌細胞の浸潤能は、抗PCI抗体により阻害された。以上の結果から、PCIはuPAを阻害することにより癌細胞の浸潤を制御している可能性が示唆された。
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