糖尿病に伴う膀胱機能障害の機序として、標的臓器から知覚神経路への神経成長因子(NGF)の軸索輸送障害が挙げられる。我々はこれまでの研究により、糖尿病ラットに、求心性神経に上行性に感染する特徴のある単純ヘルペスウイルスベクター(HSV)を用いて分泌型βNGF遺伝子を導入すると、有意に膀胱機能低下が改善することを明らかにした。しかしHSVベクターの人体への安全性は明確でなく、臨床応用にむけてのハードルは少なくない。そこで安全かつ有効な新しいNGF導入の方法を検討し、開発を進めている。 岡山大学生理第一の松井らはこれまでの研究により、11個のアミノ酸からなるPTDドメインをアルギニンに置換(11R)することにより、100kDa以上の蛋白質やペプチドがin vivoで細胞内に効率よく導入可能であるペプチドの開発に成功した。このペプチドを利用し、前駆体型NGFを膀胱平滑筋に導入し、糖尿病性膀胱機能障害に対する効果を検討する。まず、ラットNGFのcDNAを組み込んだPlasmidの増殖を行った。11RのcDNAをあらかじめ組み込んだpET Plasmidに全長NGFを組み込み、蛋白を発現・精製した。上記蛋白を初代培養膀胱平滑筋に導入し、分泌型NGFの培養液中への分泌について検討するため、正常ラットの膀胱平滑筋初代培養を行った。培養1週間後には、細胞の増殖を認め、αアクチンを用いた免疫染色にて多数の平滑筋が認められた。次年度は、11R-NGFを初代培養膀胱平滑筋に導入し、NGFの分泌が時間経過によってどのように変化するか検討し、電気刺激サイトカインおよびホルモン刺激によるNGFの分泌について比較検討す予定である。さらにストレプトゾトシン(STZ)投与による糖尿病モデルラットにおける、11R-NGF膀胱壁注入による膀胱機能障害の改善について比較検討を予定している。
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