前年度までの研究により、HIV-1 DNAのin situPCR法およびHIV-1 mRNAのin situ hybridization(ISH)法を確立しており、それら手技の他に系統発生的な解析を用いてHIV-1 quasispeciesの感染の有無を調べ、HIV-1ウィルス感染と腎不全発症の関連について検討した。 まずISH法によりHIV腎症症例の上皮細胞内にHIV-1 gagとnef mRNAの存在することを証明した。さらにHIV腎症症例の腎生検組織よりレーザーマイクロダイセクション法を用いて、パラフィン切片より尿細管上皮細胞のみを採取、その組織からDNAを抽出し、nested PCR法でHIV-1 V3-loopやgp120-envelopの塩基配列を検出した。レーザーマイクロダイセクション法による間質細胞、特にT細胞混入の無きことを確認するために、その手技により得た組織より、TCR rear rangementが検出されないことをPCR法で確認し、HIV-1 V3-loopやgp120-envelopの塩基配列が尿細管上皮細胞由来であると判断した。腎組織より得られるウイルスのアミノ酸配列と、同じ患者の血液中の単核細胞より得たそれの系統発生的な解析を行うと、臓器特異的な進化を遂げていることが示唆され、腎組織に特有なHIV-1 quasispeciesの感染を示すものと思われた。 これらの結果は、腎上皮細胞においてHIV-1特異的なproviral DNAやmRNAが検出された結果とともに、腎組織においてHIV-1の複製が行われていること、腎組織がHIV-1のリザーバーとしての機能を果たしうることを示すものとして重要である。
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