研究概要 |
HOX遺伝子の発現プロファイルを解析するために手術時のインフォームドコンセントのもとで得られた正常卵巣組織をコントロールとして、卵巣癌細胞株(明細胞癌および非明細胞癌)、および子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢胞被膜)組織から遺伝子抽出用キットを用いてtotal RNAを抽出し、ランダムプライマーを用いて、逆転写酵素によりcDNAを作成した後、β-actinを内部標準に用いたcomparative RT-PCR法にて解析を行った。それぞれの組織におけるHOX遺伝子の発現量を、遺伝子増幅産物の電気泳動を行いデンシトメトリック分析にてシグナル強度の差を比較し、内部標準のβ-actinの発現量でで除して正常に対する相対比較として求めた。PCR回数は遺伝子増幅の度合いをプロットした対数グラフを用いて標準曲線を描き、比例関係が成り立つ回数にてPCR回数を設定した(β-actinで22回、HOX遺伝子で32回)。HOXAからDにおける4つのクラスター39個の遺伝子におけるHOXの発現は、いずれも正常組織の発現プロファイルとは異なり、また子宮内膜症と明細胞癌でそのプロファイルが非常に類似し(クラスターA,Bにおける発現異常の共通性、および全クラスターにおけるAbd-HOXホモローグであるHOX7-13の異常発現パターンの共通性)、比較対照とした非明細胞癌とは異なっていることが判明した。このことから、HOX遺伝子の機能を考えた場合、良性である子宮内膜症と卵巣明細胞癌で共通の遺伝子変化があることから、両方の病態に共通の異常にHOX遺伝子が関与している可能性が示唆された。これらは両方の病態で認められる細胞浸潤や細胞の転移といった細胞の位置情報の乱れと関係がある可能性がある。また非明細胞癌においても発現パターンは明細胞癌とは異なるが、Abd-HOXの異常が認められ、この部分は卵巣癌の発生進展に何らかの影響がある可能性が示唆された。
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