研究概要 |
妊娠中毒症妊婦血清の血管内皮細胞に対する傷害作用・修復阻害作用を検討し,また,protease阻害剤による,その抑制の可能性を検討した. 方法:妊娠28〜32週の正常妊婦および重症妊娠中毒症妊婦(各n=7)の静脈血を同意のもと採取し,血清分離後-40℃に保存した.マウス血管内皮細胞株(MSS31)の培地に各検体血清を最終濃度10%になるように添加後,24時間培養し影響を検討した.また,同時に抗酸化剤(L-NAC),N0産生酵素(N0S)阻害剤(L-NAME)、またはprotease阻害剤(nafamostat mesilate)を添加し,これらの作用を検討した.細胞増殖はtrypan blue dye exhaust testにより,またcell migrationはwound healing assayにより測定した.NO産生は培養液中のNitrite(NOの安定代謝産物)で,peroxynitriteの産生は抗nitrotyrosine抗体を用いたdot blotで評価した.内皮型NOS(eNOS),誘導型NOS(iNOS)の発現はImmnnoblottingで検討した. 成績:NO産生は妊娠中毒症妊婦血清添加により有意に亢進し,peroxynitriteの産生も亢進する傾向であった.ImmunoblottingでiNOS発現の亢進,eNOS発現の低下が確認された.細胞増殖,cell migrationは,中毒症妊婦血清添加により有意に抑制された.これらの抑制は,L-NACあるいはL-NAMEの同時添加では変化しなかったが,nafamostat mesilateで回復した. 結論:重症妊娠中毒症妊婦血清には,内皮傷害作用・修復の阻害作用があり,病態に関与していると考えられた.これらを抑制することによる内皮の保護は,病態の進行を阻止し,治療に有用となる可能性がある.
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