研究概要 |
近年・日本のみならず、先進国において子宮体癌が増加傾向にあり、特に進行例や再発例では既存の化学療法や放射線療法に抵抗性の症例も少なくなく、早期発見をめざした診断法や新たな治療法の開発が望まれている。我々のグループは子宮体癌において、細胞表面の糖鎖であるLewis^b型糖鎖の発現異常が子宮体癌特異的であることを明らかにし、Lewis^b型糖鎖に対するマウス型モノクローナル抗体MSN-Iを作製することに成功した。(Nozawa S. et al.:Am.J. Obstet.Gynecol.161,1989)この抗体を利用して、子宮体癌細胞において選択的にマーカー遺伝子を導入することが可能となれば、癌の転移や浸潤などを治療前により的確に診断することが可能となり、治療成績の向上が見込まれる。我々はこのMSN-Iを利用したミサイル療法開発における基礎的な検討を行い、MSN-Iと植物毒Geloninとの複合体が、子宮体癌細胞において選択的殺細胞効果があることを報告した(Kaneta Y. et al.:Jpn.J.Cancer Res.,89,1998)。さらに、現在子宮体癌に有効な効果を示す薬物のひとつであるアドリアマイシンを用いて前臨床的な検討を行ったところ、子宮体癌培養細胞株を用いた殺細胞効果はMSN-Iと抗がん剤であるアドリアマイシンの複合体のIC50は5x10^<-4>μMであり、MSN-Iとアドリアマイシンの混合物を用いた場合の3x10^<-2>μMと比較して約60倍の効果が認められた。さらに、マウスを用いたin vivoにおいても明らかな副作用を示すことなく腫瘍退縮効果が認められ、MSN-Iを用いた分子標的療法は極めて有用であることが明らかとなった。そこで、子宮体癌細胞へ選択的に、さらに効率良く外来遺伝子を導入するために、MSN-Iとレポーター遺伝子との複合体を作製し、レポーター活性を測定したところ、コントロールと比較して3倍程度の活性上昇を認めた。今後、子宮体癌に対する遺伝子導入効率を高めると同時にヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子やシトシンデアミナーゼなどの自殺遺伝子と組み合わせた複合体を作製し、子宮体癌に対する分子標的治療の可能性について検討する予定である。
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