研究概要 |
母体血清中に胎児由来の浮遊DNAの存在が報告されている(Lo et al. Lancet 1997)。われわれも、母体血漿中からDNAを抽出し、Y遺伝子を定量的PCRで増幅し検討したところ、胎児由来の浮遊DNA量は母体血中の胎児細胞数(1ml当たり1個)の37倍と大量に存在することがわかった。この母体血漿中の胎児由来浮遊DNAのある部分は母体血中に移行した胎児細胞の破壊に由来する部分が存在すると考えられるが、母体血中に移行した胎児細胞の破壊のメカニズムについては何の報告もない。 そこで母体血中に移行した胎児細胞の除去にアポトーシスが関与しているとの仮説に基づき、母体血中の胎児細胞のアポトーシスについて検討した。母体血中の胎児由来細胞の42.3%がDNA断片化を示すTUNEL染色陽性であり、母体血からの胎児細胞除去にアポトーシスが関与している事を初めて示し報告した(Prenat Diagn 2000)。また、臍帯血を低酸素及び高酸素環境下で培養し、臍帯血中の有核赤血球数の変化を検討した。1%酸素環境で有核赤血球を12時間培養した後の有核赤血球数は前値に比較し、89%であったのに対し、20%酸素環境下では30%と1%酸素環境に比較し有意に有核赤血球が減少することが明らかになった。さらに、培養後に有核赤血球をTUNEL法で染色し、評価すると陽性細胞は1%酸素で14%であるのに対し、20%酸素で20%と有意に増加していた(p<0.05,Wilcoxon test)。 母体循環中に移行した胎児細胞の主体は有核赤血球である。今回の検討の結果、比較的低酸素環境で循環している胎児の有核赤血球は母体循環に入ると今まで以上の高酸素環境に曝され、それが細胞にアポトーシスを誘導し、母体免疫系を刺激することなく母体循環中から胎児細胞が排除される機構が存在することを示唆する。 さらに、母体血漿中胎児DNAの由来についての検討も行った。Polymorphic marker geneを用いた検討では、浮遊DNAの胎盤を介した双方向移行が確認できたが、濃度で比較すると20倍母体血漿中胎児DNA濃度が高濃度であり、母体血漿中胎児DNA濃度が上昇するとされる妊娠中毒症の症例でも胎児側への浮遊DNAの移行量は増加しなかったことから、胎盤を介した双方向の浮遊DNAの移行は僅かではないかと考えられた。
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