子宮内膜症は性成熟期女性に好発する良性疾患であり、性成熟期の女性の月経困難症、不妊症の原因疾患のひとつである。近年、その子宮内膜症の組織の中に染色体レベルでの異常(特に17q染色体の異常)が報告され、前癌病変としての可能性が注目されている。 卵巣明細胞腺癌(OCCA)、卵巣類内膜腺癌(OEMC)は卵巣癌の中でも著しく予後不良な組織型であるが、今回検討した結果、子宮内膜症を65%、44%とそれぞれ高率に合併していた。また、病理組織学的には子宮内膜症、atypical endometriosisからOCCA、OEMCへの移行を思わせる像が散見される。われわれは子宮内膜症、OCCA、OEMCにおいてK-ras、p53遺伝子変異を検討した。K-ras遺伝子変異はOCCAでは16.2%に認め、OEMCでは3.7%に認めた。p53遺伝子変異に関してはOEMCの63%に対し、OCCAでは全く認めなかった。この結果は同時に行ったp53蛋白の免疫組織化学染色の結果と一致した。一方、子宮内膜症ではK-ras、p53遺伝子いずれの変異も認めなかった。また、これらの結果を、多変量解析にて分析したところ、OCCAにおいて子宮内膜症を合併している症例、p53遺伝子変異を認めない症例で有意に予後が良好であり、独立した予後推定因子であることがわかった。 K-ras遺伝子変異のあった病理学的に連続的に子宮内膜症からOCCAに移行した部をもつ2症例において、子宮内膜症、atypical endometriosis、OCCAの部分をmicrodissectionで個別に採取し、K-ras遺伝子の変異を検討した。子宮内膜症、atypical endometriosisでは遺伝子変異を認めなかったが、OCCAではK-ras遺伝子の変異を認めた。このことから、K-rasはOCCAのatypical endometriosisからの発癌に関与している可能性が考えられた。
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