卵巣明細胞腺癌(OCCA)、卵巣類内膜腺癌(OEMC)は卵巣癌の中でも著しく予後不良な組織型であり、臨床上子宮内膜症を高率に合併している。病理組織学的には子官内膜症、atypical endometriosisからOCCA、OEMCへの移行を思わせる像が散見される。 われわれは子宮内膜症、OCCA、OEMCにおいてK-ras、p53遺伝子変異を検討したところ、K-ras遺伝子変異をOCCAでは90.1%と高率に認め、OEMCでは79.0%であった。p53遺伝子変異に関してはOEMCの59%に対し、OCCAでは全く認められなかった。また、病理学的な所見を含め、おのおのの因子の患者予後に対しての関与につき、多変量解析した。この結果、OCCAでは子宮内膜症を合併した症例が予後良好であり、また、p53遺伝子変異を有する症例は予後不良で、それらが独立した予後規定因子になることがわかった。また、病理学的に子宮内膜症、atypical endometriosisからOCCAに連続的に移行する症例で、OCCAにK-ras遺伝子変異を認めた2例において、microdissectionでおのおのの部分を個別に採取し、遺伝子増幅してK-rasの遺伝子変異を検索した。その結果、子宮内膜症、atypical endometriosisには遺伝子変異は認めなかったもののOCCAにはK-ras変異が同定され、atypical endometriosisからOCCAへの癌化にK-ras遺伝子変異が関与している可能性が示された。また、OEMCの症例でも一例で病理学的な啓行病変を有する症例があり、その症例がK-ras遺伝子変異と1種類の遺伝子領域でのmicrosatellite instabilityを確認したため、同様にmicrodissectionでおのおのの部分を個別に採取し、遺伝子増幅してK-rasの遺伝子変異、microsatellite instabilityを検索した。その結果、この症例でもatypical endometriosisには遺伝子変異は認めなかった。これらの結果から今回検討した症例ではatypical endometriosisの領域には遺伝子異常は同定できず、atypical endometriosisからの癌化の段階にk-rasなどの遺伝子変異が関与している可能性が考えられた。
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