内耳蝸牛に存在する外有毛細胞は、生体内において、伸縮運動により力を発生し、基底板振動を増幅すると考えられている。そして、この伸縮運動メカニズムにより、我々の聴覚は、鋭敏な判別機能を有すると推察されている。現在のところ、外有毛細胞の伸縮運動メカニズムの源は、細胞膜に存在すると推察されている蛋白質モータの変形であるという説が有力である。近年、P.Dallosにより、膜電位の変化に伴う細胞側壁の硬さの変化を示唆する報告がなされた。現時点では計測例が少なく、伸縮運動に及ぼす影響も不明である。しかし、これまで構築してきたモデルに上述の結果を組み込むと、より詳細な外有毛細胞の伸縮運動解析が可能となり、そのメカニズム解明につながると考えられる。 そこで本研究では、昨年度にひきつづき原子間力顕微鏡を用い、蝸牛の各回転ごとに外有毛細胞の硬さを計測した。その結果、蝸牛基底回転の細胞ほど硬く、頂回転に向かうにつれやわらかくなることがわかった。また、この結果をこれまで構築してきたモデルに組み込み、細胞の伸縮運動解析を行った結果、基底回転側の外有毛細胞ほどより大きな力を発生し得ることが示唆された。蝸牛は周波数弁別機能を有し、基底回転ほど高い周波数を検出することが知られている(周波数弁別機能)。さらに、蝸牛内基底板の硬さは、基底回転ほど硬い。これらの事実とともに蝸牛内における増幅機構を考慮すると、外有毛細胞が頂回転ほど大きな力を発生することは利にかなっていると考えられた。
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