本研究では、非症候群性遺伝性難聴における遺伝子異常を分子生物学的手法により同定し、蝸電図を用いた電気生理学的手法により蝸牛病態の検討を行った。 非症候群性遺伝性難聴においては、約70の原因遺伝子座と20以上の原因遺伝子が同定されてきている。本年度における分子生物学的検討として、既知の難聴遺伝子のスクリーニングを行った。すなわち、GJB2遺伝子、ミトコンドリアDNA3243点変異、1555点変異の遺伝子解析を行った。方法として、各遺伝子をコードする塩基配列をPCR法により増幅し、アガロースゲル電気泳動による分離し、直接シーケンス法により変異の有無を確認した。 GJB2遺伝子(コネキシン26遺伝子)は、最も頻度の高い難聴遺伝子とされている。難聴家系58家系(62例)を対象としたGJB2遺伝子解析では、6家系(10.3%)9例において235de1C、G45E、Y136X、T123Nの変異が認められた。この中で、T123Nは常染色体優性遺伝形式の難聴家系に認められ、DFNA3を引き起こす変異である可能性が考えられた。 ミトコンドリアDNA変異では、3243点変異と1555点変異を検索した。3243点変異は検索した16例中3例に、1555点変異は67例中3例に変異が認められた。後者は、アミノ配糖体系薬剤の投与で高度の難聴をきたすものであり、難聴の予防的治療の観点からも有用であった。 さらに、ミトコンドリア遺伝子変異による症候群性難聴症例における蝸電図、耳音響放射、ABRなどの聴覚機能検査結果から、本遺伝子による聴覚障害部位は内耳および聴神経であることを同定した。
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