本研究では、遺伝性難聴における遺伝子異常を分子生物学的手法により同定し、蝸電図を用いた電気生理学的手法によりその蝸牛病態の検討を行った。 遺伝性難聴においては、既知の難聴遺伝子のスクリーニングを行った。すなわち、昨年度からのGJB2遺伝子、ミトコンドリアDNA3243点変異、1555点変異の遺伝子解析を進めると同時に、EYA1遺伝子、SLC26A4遺伝子についても検討した。方法として、各遺伝子をコードする塩基配列をPCR法により増幅し、アガロースゲル電気泳動による分離し、直接シーケンス法により変異の有無を確認した。 難聴家系125家系(142例)を対象としたGJB2遺伝子(コネキシン26遺伝子)解析では、14家系(11%)30例において235delC、G45E、Y136X、V37I、T123Nの変異が認められた。ミトコンドリアDNA1555点変異は、110家系中7家系(6.4%)、アミノ配糖体系薬剤の投与例6家系中2例(33%)に認められた。また、A1555G変異例では、蝸電図を含めた機能検査により聴覚障害部位は蝸牛であり、明らかな前庭障害は来たさないことを示した。3243点変異は検索した31例中4例に認められた。一方、BO症候群2例中1例にこれまで報告されていないEYA1遺伝子変異(S189G)を同定し、前庭水管拡大を伴う難聴家系2例中1例に変異(His723Arg)を認めた。さらに電気生理学的手法による蝸牛病態の解明として、エアバッグにより生じた音響外傷例を報告し、蝸電図を含めた機能検査から蝸牛障害による感音難聴であることを示した。
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