近年宇宙開発事業は急速な進歩を遂げており、近い将来人類が宇宙の微小重力環境下により長く曝露される可能性が多くなることが予想される。そのため微小重力を含む異なる環境下で起こりうる身体の変化を予測することは、今後の宇宙活動を進める上で非常に重要であると思われる。今回異なる重力環境に暴露された際にいかなる遺伝子の発現が促進あるいは抑制を受けているかに関して検討を行った。ラットに過重力(2G)を48時間負荷し、前庭系(末梢前庭系、脳幹、小脳)でいかなる遺伝子発現が変化するかについて、それぞれmRNAを抽出し、短時間に多くの遺伝子発現の変化を捉えることができるDNAチップ(マイクロアレイ)を用いて解析した。その結果、過重力負荷を受けた末梢前庭において、遺伝子発現比が3倍以上に増加する20の遺伝子、1/3以下となる2つの遺伝子が明らかとなった。脳幹においては、遺伝子発現比が3倍以上に増加する19の遺伝子、1/3以下となる12の遺伝子が、また小脳においては、遺伝子発現比が3倍以上に増加する15の遺伝子、1/3以下となる22の遺伝子それぞれ明らかとなった。現在これら遺伝子についてそれぞれreal-time PCR法により定量解析を行い、確認しているところである。また、DNAチップ(マイクロアレイ)と同様に短時間に多くの遺伝子発現の変化を捉えることができるDifferential display法による解析も並行して行い、末梢前庭においては細胞骨格蛋白であるMicrotubule associated protein(MAP1A)のmRNAがup-regulationされることを明らかにして発表した。今後これらの物質が実際に末梢前庭のどの細胞においてどのように働いて新しい環境へ適応しようとしているのかなどについて深く検討を進め、前庭系全体としてどのような遺伝子発現の変化が起こっているのかについて更に解析していく予定である。
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